老舗サロンの売り上げNo.1からフリーランスへ。自由を手にした今思うこと。kozue/FREELANCE STORY

Q.前職のサロン時代のことをお聞かせください。

A.前職のサロンでは20年以上勤めていていて、10年間は店長をしていました。売上も指名数も常にトップで毎日忙しくサロンワークをしていました。1日の入客は15名ほど。アシスタントと共に常に2~3名のお客様を同時進行で施術していました。お客様を待たせてしまって心苦しくも思っていました。きっと、私も疲れが顔に出ていたのかなと今では思っています(笑)アシスタントの子たちは常に入れ替わり、自分の指導力の無さにも年数を重ねるたびに自己嫌悪していました。それでも、40年以上続く地元の老舗美容室の店長として歴史を守り続ける使命みたいなものも感じて、自分がこの店を辞めるだなんて当時は全く考えもしませんでした。

Q.そんな佐々木さんがフリーランスとして働くきっかけは何だったのでしょうか?

A.実は、前職のサロンワーク中で凄くショッキングなことがあったのです。私がスタイリストになってからずっと指名頂いていた女性のお客様に言われた言葉が私の考え方を変えました・・・・。
そのお客様は月に1回のペースでカットカラーをされる方で、その日もいつも通りカットをし終えた後にアシスタントにカラーを塗ってもらっていました。仕上がって、お店の外まで見送りをしようと一緒に外に出たときにお客様が真剣な顔で「佐々木さん、いつも綺麗に仕上げてくれてありがとね。実は、ずっと言おうか迷っていたのだけれど・・・・やっぱり言うわね。私が佐々木さんのことが好きだから、これからも良い関係で私の髪を任せたいから言いたいの。カラーのことだけど、本当はあなたにカラーも塗って欲しいの。お手伝いの子たちに不満があるわけではないのだけれど、ずっとこちらに通わせていただいている最大の理由は佐々木さんを私の担当美容師として信用しているからなの。わがままなことを言って困らせてしまうことは承知しています。でも、どうしても気持ちだけでも知ってもらいたかったから・・・。」
私は、無表情のまま固まってしまいました。何も言葉が出ませんでした、出せなかったのです。ずっと心の中で蓋をしていた思いが一気に頭の中を駆け巡りました。『本当は大事なお客様に全力で全ての施術をしたい』でも、お客様の人数をこなし売り上げを上げるにはアシスタントに頼るしかなかった・・・。私だけの売り上げじゃない、店長として店全体のためにも私自身の売り上げを下げるわけにはいかなかった。

だけど、それで美容師として私自身は楽しいの?お客様は嬉しいの?

一瞬の間に頭の中で自問自答をしていました。っは、と我に返ってお客様の顔を見ると優しい笑顔でした。そして、こう言ってくれました。

「いろいろと無理してない?10数年間のお付き合いの中で、あなたが私を担当していた最初のころの仕事が楽しそうな顔がなんとなく少なくなってきたように見えたの。本当にカットが上手だし、どんどん人気が出て沢山の方から支持されるのは解るのだけれど・・・・人間は機械じゃないから限界があると思うの。ここ数年は佐々木さんは限界を超えているのじゃないかしらと心配していたの。」

そんな会話を終え、その後毎日そのことが頭をぐるぐる回っていました。
これが最初に私がフリーランスになることを考えるきっかけとなりました。

Q.フリーランスで働くことを決意した決め手はありましたか?

A.実はそのお客様に言われたからフリーランスになるまでに3年間かかりました。あくまでも、あの言葉で当時の店の在り方に疑問を持っただけですから、直後に自分が店を辞めるなどは全く考えていませんでした。

その3年間は今までになくお店の在り方に真剣に考えました。幹部とミーティングも何回も重ねて、様々なことを議論し試みました。結果、何も変わらなかったどころか益々どうしたらいいのか解らなくなっていきました。そんなとき、フリーランスで働く美容師の方とお話しする機会があって・・・・その人との話で一気にフリーランスになりたい気持ちが沸き上がりました。

フリーランス美容師Aさんは私の店の悩みに対して「佐々木さんはさ、美容室経営や運営やマネージメントをしたくて美容師やってるの?」と言いました。私は「え???どういう意味ですか?」と答えました。Aさん「そのままの意味だよ、美容師の仕事ってお客様にカットやカラー、パーマ等を施して喜んでもらって対価を得る仕事じゃないの?美容師として店長がやりたかったの?」

店長をやりたかった?

そんなことと考えたこともありませんでした。だって、指名数、売上数がトップの人が店長をやるものだと思い込んでいたから。確かに、やりたいか、やりたくないかと考えれば「やりたくない」が答えでした。やらなくていいのなら・・・・でも自分がやらないと・・・・って、当時は何も疑わず当たり前のように店長をしていました。

Aさん「僕は美容師としての仕事をしたいから美容師になったのだけれど、佐々木さんは違うの?店長業務は美容師の仕事なの?」

佐々木「本音で言えばやりたくないけど、今更無責任に後輩やみんなを放って辞めれないですよ。そんな我儘言えませんし。」

Aさん「なるほど、それは店を辞めずに店長だけ降りるという言い方だね。そりゃ無理だろうね。でも、店辞めれば店長も辞めれるし悩みも無くなるんじゃない?」

佐々木「え?店を辞める?そんなこと考えたことも無いですよ。それこそ無責任じゃないですか?」

Aさん「そうかな?責任が生じるのは、今現在あなたが店長という立場だからだよね。その責任から逃れて楽しく美容師をする選択肢があってもいいんじゃない?」

佐々木「・・・・・・・店を辞める選択肢。」

Aさん「実は僕も、数年前まで大型サロンで店長やっていたんだ。だから佐々木さんの気持ちは理解できる。というより、何故そういった選択肢が出てこなかったりするのか・・・わかる?」

佐々木「お店のことが大事だと思っているから?」

Aさん「もちろん、それもあるけど。佐々木さん自身の美容師としての幸せは?考えてる?カット以外のカラー、パーマ、シャンプー、仕上げ等は全部アシスタントに任せて人数だけをこなすことが佐々木さんの理想の働き方?たぶん、美容師という仕事が本気で好きなら違うと思うんだ。」

佐々木「まあ、確かに。でもそれと、店を辞める選択肢が出てない理由と何の関係があるのですか?」

Aさん「店を辞めて新しい選択をするのってさ、誰のためにするの?お店のため?自分のため?」

佐々木「自分のためですよよね?」

Aさん「そう!佐々木さんは店のことばかり考えて自分の美容師としての幸せを考えることから目を背けてるんだよ!だから店を辞める選択肢が出てこない。」

佐々木「!!!・・・・・そんな自覚はないのですが・・・仮にそうだとしても、店長になってそれ以上何をしろと?」

Aさん「うん、僕がやってるみたいにフリーランスになればいいじゃない?そしたら、佐々木さんの今の仕事の悩みは全部消えるよ。」

佐々木「全部?私が全部ひとりひとりのお客様に楽しく施術出来るのは理解出来ます。」

Aさん「それでいいんじゃない?むしろそれ以外に何かあるの?」

佐々木「自分が辞めたら店はどうなるの?残された人たちは?それに、私も新しいところやっていけるか不安だし、今までのお客様もいるし」

Aさん「はははは!」

佐々木「!?なんでそこで笑うのですか????」

Aさん「ごめん、ごめん、全く今まで辞めることを想定してなかったみたいだね。まあ、実は僕もそうだったんだけど。全く同じだったから。ついつい、可笑しくて。ごめんね。」

佐々木「ええ?そうなんですか?Aさんは私と全く違う価値観だと思っていましたが。」

Aさん「僕もいきなり今の考え方になったわけじゃないよ。辞めて、今のフリーランスとしての働く環境になってから徐々に価値観が変わったんだ」

佐々木「じゃあ、辞める前は今の私みたいな感じだったということですか?」

Aさん「そう!全く一緒。後輩とか部下とかに対して「自分がやめたら、この子たちはどうなっちゃうんだろう」って。でもね、今となればソレって自意識過剰で恥ずかしいことだって思った。そして、自分以外のスタッフを上から見下していたんだなって思ったよ。」

佐々木「私は見下してなんていませんよ!」

Aさん「いや、無意識で見下しているよ。だって、自分が辞めたら・・・って、みんなを尊重していない人の発言だよ?大丈夫だよ、誰が辞めても誰が店長やっても同じだよ。そう思っているなら、辞めても問題ないでしょ?」

佐々木「あ・・・」

Aさん「佐々木さん以外の人が全員アシスタントじゃないでしょ?」

佐々木「はい、長い歴のスタイリストは一応います」

Aさん「じゃ、まかせちゃおうよ(笑)。それとね、スタイリスト一人辞めたら、スタイリスト足りなくなるでしょ?そしたらアシスタントを繰り上げるよね?逆に言うと、スタイリスト人数が満たされていればアシスタントに昇格チャンスないんじゃない?気づいてるでしょ?」

佐々木「はい・・・・、確かにスタイリストが辞めるたびにスタイリスト、アシスタントのバランスが悪くなるのでスタイリストを増やします。」

Aさん「うんうん、それが普通の美容室だよね。ほら、問題ないでしょ?」

佐々木「じゃあ、仮にそこが問題なくても私自身は?今のお客様は?保障や給与、その他の環境は?」

Aさん「佐々木さん、もうあなたには沢山の顧客がいるんじゃない?普通にフリーランスになったら皆ついてくるでしょ?自信がないの?お客様との信頼関係は?」

佐々木「確かに、お客様が私に指名をしていただいている人数は多いと思いますし条件さえ良ければついてきてくれると思います。」

Aさん「キャリアの長い美容師にとって実力って何だと思う?」

佐々木「技術?サービス?」

Aさん「それは誰がどうやって決めるの?」

佐々木「お客様が決めること?????」

Aさん「そう、答えは指名して頂いてる顧客数で測れるんじゃない?しかも、それが環境が変わっても顧客数が維持できているかどうかで美容師の実力がわかるよね、それが答えだと思う。」

佐々木「確かに。言われてみればあたりまえのことですね。なんとなく、今までのお話は少し考えれば理解できることばかりですね。」

Aさん「気づいたかい?実は最初から僕たち美容師からしたら、当たり前の会話をしているんだよね。でも、佐々木さんは新たな発見のようなリアクションをとっていた。」

佐々木「????」

Aさん「今の職場で忙しくて、周囲の美容室や美容師のリアルな今の現実を考える暇すらなかったんでしょ。僕も同じだったよ。忙しいとね、思考力や判断力も鈍るし・・・・それどことか自分の幸せすら見直すことすら出来なくなる」

佐々木「あ・・・・」

Aさん「そう、頭の中では常に店のことばかり考えていた。だから、まずは佐々木さんの人生を考えてもらうことが重要なのかなと思ったんだ」


そこから先はずっと自分の美容師としてのことばかり考えていました。決め手はAさんとの会話が全てでした。
たまたまの出会いだったのですが、忙しくて視野が狭くなるって怖いですね。

Q.フリーランスで働いてみて良かったことを教えてください

A.一番はお客様に喜んで頂けたことです。多い意見ではマンツーマンが圧倒的に好評でした。「佐々木さんだけが全部やってくれるから安心感が上がった」「佐々木さんのシャンプーが気持ちい良い」「乾かし方とか丁寧に教えて貰えてうれしい」など、アシスタントに頼っていた施術を自身でやるようになって褒められることも多くなりました。

あとは、なんだかんだ言って後輩への指導が無くなったのは嬉しいです(笑)ストレスだったんだって思いました。教えるの苦手なんですよね。
他人の売り上げを気にしなくて良いのは最高です!!Aさんの言ってた責任放棄は私にとって重要でした。

他にも、周囲のスタイリストの幅広い知識や技術をシェア(教えて貰ったり)出来るのは素敵ですね。お互いに対等な立場で技術の意見交換が出来る環境は今までになく新鮮です。(勉強会は無く、自発的にやってるだけです)

プライベートも充実しています。休みたいときに休める!土日も休める!連休で旅行も行ける!自分の子供の行事100%行けるのも凄いです。

そして何といっても報酬が上がったことです。従来のサロン時代より1.5~2倍近く上がってます。(本当です)歩合が高いって、すごいことですよ。

最後にこれからフリーランスを目指そうとしている人にアドバイスをお願いします

顧客をある程度抱えている美容師の皆さん、純粋に美容師としての仕事を楽しみたい方はフリーランスが本当にお勧めです。
本当に稼げるのか、お客様がついてくるのか不安でしょうが・・・・ダメなら元の職場に戻ってもいいのではないでしょうか?(笑)
それとシェアサロンは今や本当に増えています。よ~~~~く、条件を見比べることをお勧めします。歩合、立地、自由度、実績等。

今の場所を辞めるのは誰でも不安ですが、勇気をもって一歩踏み出してみてはいかがでしょうか?あなたの人生のために。